発酵のおもしろさ
発酵とは、不確実で曖昧な世界です。
味も仕組みも明確な正解はなく、いつもぼんやりとした輪郭の中にあります。
「発酵と腐敗の違いは、微生物による活動が人類にとって有益か有害かで分ける。」これは発酵学で一番最初に習う定番のフレーズなのですが、この視点の違いで答えが変わる”淡さ”こそがやはり最初にして最大の発酵の面白さだと思います。
たとえ発酵の仕組みを論理的に理解して実践を試みても、そこには必ずノイズが入り、思い通りにならないことがほとんど。
そのような目に見えない微生物が生み出すこのプロセスに不安を感じる反面、理屈を超えた楽しさがあったり、再現性のないその瞬間だけの美味しさを生み出すこともあります。
菌と人間のパラレルワールドな関係性
醸造に携われば皆、自分たちが「職人」と言われることに違和感を感じてきます。つくっているのは菌たちであり、自分たちがしているのは「管理」に過ぎないからです。
しかし一方で、「職人」にあたる麹菌や酵母たちはというと、人間のためではなく、ただ自分たちが「生きるため」に活動をしているだけだという、共創のようで実は異なる、あたかもパラレルワールドのような関係性が、発酵の面白さをさらに引き立てます。
ゆらぎと定まり、どちらもモヤモヤ
私は、味噌屋に生まれ、20年以上味噌などの発酵食品をつくりながら、独学でプログラミングを学びウェブサイトをつくったり、パッケージデザインをしたり、シート製ストローなどの発酵食品以外の商品開発を通じて、デジタル分野や工学分野などさまざまなことにも挑戦し、アナログとデジタルそれぞれのものづくりに携わってきました。
発酵やアートのように設計から逸脱し、予測不可能な要素や「ゆらぎ」を受け入れながらもなんとかするブリコラージュ的(※)な姿勢も結果も魅力的ですが、やはりそれではスピードが遅く、量産もできず、今のファスト時代には合わないという現実を(痛いほど)肌で感じています。
一方で、すべてを設計通りにしようとするエンジニアリング的な方法は、定まり、再現性があり、最適解に最短で辿り着く代わりに、途中の「何か」を見落としてしまう可能性もあるのではという不安な感覚がいつも付き纏います。
つまり結局、どちらもモヤモヤしながらものづくりをしているのです。
(※手元にある材料や道具を工夫して新しいものを創造する即興的な方法や思考のこと。)
発酵的視点を手に入れたい
今回立ち上げる「Hackoh」というブランドは、発酵(Ferment/Hakko)と工夫(Hack)を掛け合わせた造語で、発酵による未知なる可能性を工夫しながら探求しつつ、「発酵的視点」を手に入れたいという思いを込めています。
発酵という不確実なものをアート的に楽しむだけではなく、プログラミングやサイエンスという確実性の高い要素、そしてまだ2024年時点では未成熟で、確実と不確実を行き来するような未知なるAIというシステムをそれぞれうまく融合させ、「つくること」を通じて「発酵的視点」について考えていきたいと思います。
この構想と計画は4年以上前からあったのですが、パンデミックを経てようやく始動しようとしています。
ただ正直、ここまできたら全く急ぐつもりもなく。少しずつ菌糸を伸ばしていくようにゆっくりと、未完成の状態を楽しみながら進めていけたらと思います。
光浦醸造の新しいブランド「Hackoh」。
具体的な話を全くしていなくて申し訳ないですが、またなんかやってるなー、という感じでたまに気にかけていただけると嬉しいです。