光浦醸造がパン屋をはじめました

1865年の創業以来、味噌など日本の伝統的な発酵を生業としている私たち光浦醸造は、2022年8月5日、発酵の日にひっそりとパン屋を始めました。
長年、パンは味噌業界の敵でした。パン食が広まるにつれ、味噌の需要がどんどん落ちてきたからです。しかしここまでパンが日本人の生活に馴染むと、もはや完敗。いつからか私たちは味噌も共存共栄できる「日本らしいパン」をつくってみたくなりました。

\ 光浦醸造ベーカリーebb&flowのオンラインショップができました! /

※光浦醸造オンラインショップとは別サイトとなります。

女優の伊原六花さんが、「朝だ!生です旅サラダ」(朝日放送)の取材でebb&flowにご来店いただきました。

自家製酵母によるパンづくり

パンは味噌と同じく発酵食品です。味噌は旨味を出すために発酵をさせますが、パンの場合、発酵の力は主にパンを美味しく膨らませるために必要となります。
小麦粉の粘土の中にガスを発生する”種”を練り込むことで、時間をおくと小麦粉の粘土が膨らみ、その状態で焼くことによってあのパンらしい膨らみと風味が出るといったイメージです。

その”種”、つまり「酵母」をどうするかがパンづくりにおいては重要な要素のひとつであり、味噌屋である私たちがお届けするパン屋『ebb&flow』は、麹づくりからはじめる「酒種酵母」をメインとした様々なオリジナリティのある酵母づくりからこだわっていこうと考えています。

イーストとの違い

「天然酵母」という言葉が広まったことにより、「イースト(=パン酵母)」は天然ではない人工のものと勘違いされていらっしゃる方も多いようですが、イーストはもちろん自然由来のものです。
パンを膨らませる能力の高い酵母(S・セレビシエ)を純粋培養した単一酵母なので、均一かつ安全で確実性が高く、保存も可能な便利なものです。

その酵母は当然ながら自然界にもたくさん存在しているので、自分たちで起こすこともできます。
いわゆる「天然酵母」と呼ばれるものはレーズンなどの表面に付着している酵母を時間をかけて培養し、パンに使用するというものなのですが、イーストとの違いは、純粋培養による単一酵母ではなく、いろんな種類の酵母が混ざっているということです。

毎回違う、一期一会のパン

「膨らむ」に特化した酵母だけではないため発酵に時間がかかり、「ふんわり」とした食感よりは「詰まった」食感になりやすいですし、酵母の調子によってイレギュラーも起こりやすいですが、味わいの面では様々な野生酵母があることにより複雑な味が形成されるといえます。

最近では天然酵母もイーストのように商品として販売されていて、手軽に毎回安定した「天然酵母のパン」と呼べるものがつくれるようになっていますが、私たちは、酵母を起こすところからオリジナリティを持ってつくっていこうという決意として「自家製発酵種」というキーワードを掲げることにしました。
安定・均一ではなく、不確実性を楽しむ。そんなパン屋を目指します。

そのような考え方は、イースト(=パン酵母)を否定しているわけでも、絶対に使わないといった極端なものではなく、その優れた力を利用してスターターとして使用したり、イーストも加えなければ出せない味わいや食感だと判断した場合には少量使用することもありますが、それらは使用する酵母全体の2%以下とする社内基準を設けています。

酒種という日本独特の酵母

私たちがつくるメインの酵母には、これまでの醸造技術を生かし、麹の発酵の力を利用した日本独特の「酒種」を採用しています。米と米麹と水でつくる、「どぶろく」のようなものからつくるので酒の種「酒種(さかだね)」と呼ぶのですが、出来上がったパンの中にアルコールが入っているわけではありませんのでご安心ください。

「酒種」をつくる際には味噌屋として麹からつくるのは当然ですが、人工的な乳酸菌の添加をせず、空気中の乳酸菌や酵母を取り込んで沸かせる「菩提酛法」という、昔ながらの原始的な製法をとっています。


他にも、フロートレモンティーに使用している国産のドライレモンから培養した「レモン酵母」など、ドライフルーツをつくるところから酵母を起こすまでを一気通貫したフルーツ酵母など、様々な独自の自家製酵母によりパンをつくっていきたいと考えています。

目指すのは「日本のパンづくり」

小麦などの主原料はできるだけ地元に近い国産原料を使用します。
他にも、私たちのパンには基本的に卵やバター、牛乳、生クリームなども使用していないといった特徴があるのですが、それはアレルギー対策でも、動物性由来食材へのレジスタンスでもなく、よりシンプルな方法からスタートさせることによる「ものづくりの歴史の再構築」によって生まれる新たな分岐点を、できるだけ身近な原料と独自の方法で乗り越え、自分たちなりに考えた日本のパンづくりをしていきたいのです。

長い時間軸で

残念ながら私たちは海外で修行をしたパン職人を集結させたパンのプロ集団ではありませんし、グルテンの少ない国産小麦だけでは表現できないパンもあるのかもしれません。バターや生クリームなどを使わないので、クロワッサンのようなふんわりサクサクとしたパンは正直、今の技術ではお届けすることが出来ません。
誤解を恐れずにいえば、全力は尽くすもののオープン当初から完成した形をお届けすることは出来ないと思っています。(「ひっそりと」オープンさせたのは、そのような理由もありました。)

しかしそうだとしても、このような長い時間軸と強い意志のもとでパンづくりに向き合い、唯一無二のパン屋になれるように励んでいこうと思いますので、皆様にもできるだけ長い目で私たちの成長を見守っていただけますと幸いです。

店名である『ebb&flow』は、「潮の満ち引き」という意味があります。
海沿いに醸造所のある光浦醸造は昔から「旭波」という屋号であり、昔の住所も「海岸通り」という場所であったりと「波」や「海」というキーワードと共にありました。
また、今回一緒にパン事業を立ち上げた店長の以前のお店(出張パン屋)の屋号が「Low」であったということもあり「ebb&flow」と命名しました。
うまくいかない時(引き潮・ebb)も良い時(満ち潮・flow)もある。
目先の需要や市場に迎合されることなく、自分たちのこのようなスタイルを貫いていきたいと思います。
光浦醸造の新しいチャレンジをぜひ見守ってください。
どうぞよろしくお願いいたします。