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受け継ぐということ


もし、自分が味噌醤油屋を “起業” するのであれば、間違いなく国産・無添加の商品ばかりつくると思います。それが一番シンプルで自分自身納得がいくし、その良さは時代を越えて普遍的だからです。
この仕事に向き合うようになったとき、これまでの味・価格・お客様を完全にリセットして、そのような自分の納得する路線でゼロからスタートしていこうと考えたことも正直ありました。
つまり、誤解を恐れず言うのであれば、今の商品や会社形態は100%の自己表現ではありません。

味噌醤油屋のみならず、家業を受け継いでいく者にとって、一番最初の葛藤はスタートライン(与えられた環境)だと思います。それは会社の規模が大きくても小さくても同じ。設備がボロボロで販路もなく悩む人もいれば、小さくやりたいのにすでに販路を広めすぎていて、悩む人もいるでしょう。時代は変化していくので、当時、良いと思って先代が一生懸命構築したものが今も良いとは限らないし、味や原料、添加物、価格、流通、設備、製造方法、、、全て自分が納得いくものを前の代から受け継ぐなんてことはまずありません。もちろん、マイナスの要素だけではなく、今の自分では、(これから先、仕事ができるであろう20~30年といったレベルでは)とても得られないような、プラスの部分もたくさん受け継いでいるということも事実です。

結局、受け継いで仕事をする以上、スタートラインがプラスマイナスのデコボコなのは仕方がないこと。
長く続いている会社ほど、大きな変化はすぐには出来ないものですが、将来的になりたい姿に徐々に近づくように、いつか100%の自己表現ができるように進んでいくしかないんだと思います。

当然、自分が満足できる会社にしても、それが次の代の100%ということはないでしょう。
だけどやはり、時代や人・地域を越えて良いものというものはあります。
私たちは少しづつその普遍的なものを求めて、いろんな横道にそれたとしても、大きなベクトルだけは常にその方向へ向いていたいと思っています。